大口を叩いてしまったけど、私が大人になったとしたら今とは違う自分へと変われるのだろうか? それともずっとこのまま、なにもできない自分のままなのだろうか?
 将来の夢もなくて、生きている意味も生まれた理由もすらもわからない私に、この先の未来なんてあるの? そんな私が雨に胸を貸せる日が本当に来るの?


「ええ、その日を楽しみに待っているわ。奏はきっと素敵な女性になるはずだから」


 優しい気休めの言葉だ。
 だけど、雨にそう言われると私は信じられそうになる。今はまだ朧気な未来だけど、いつかそんな日がくれば――


 彼女を抱きしめる腕が強くなる。きっと苦しいかな? でも、それを雨は嫌がらないでいてくれた。それから数分後、耳元で声が聞こえる。


「ほら、奏? そろそろ学校に行かないと遅れるわ。駅まで行きましょう?」
「…………」
「奏?」


 周りの視線を感じるけど、私は抱きついたまま離れなかった。
 歩道の横、街路樹の下でこうしてるんだから邪魔にはならないでしょ。と内心思いながらも少しだけここにいるのが恥ずかしくなる。
 なんだか居心地が悪くなり、咄嗟に考えた言葉を彼女の耳元でぽつりと零す。


「…………やだ。今日は学校サボる」


 結局、私のわがままでその日は学校をサボり、雨と一緒に買い物を楽しむことになった。
 けれど一つ、約束を交わすことにする。それは明日からはいつも通り、真面目に学校へ行くこと。
 私に付き合わせて、雨の出席日数が足りないから二年生に上がれなくなりましたーなんて、笑えない冗談だから。