「ぅ……あ、め……私、なんだか、すごく眠い……よ」


 精神的にも肉体的にもボロボロだ。話したいことはまだまだあるはずなのに、頭がぼーっとしてしまって、上手く言葉が出てこない。
 私はベッドの脇に頭を置くと、意識が沈んでいく。


「奏……いえ、今はゆっくり眠って。辛いことたくさんあったはずだから、せめて今だけはゆっくりと」


 雨の優しいその言葉を最後に、私は意識を暗い闇の中へ落としていく。そんな真っ暗な闇だったから私は夢すらも見ずに済んだのかもしれない。
 きっと、夢を見ていたらうなされていただろう。



 次に気付いた時は深夜遅く。
 頬や体には治療が施されていて、私は雨のベッドで寝かされていた。
 雨はというと既に体調を崩していたとは思えないほどに普通になっており、私が起きたことがわかると軽い夜食を作ってくれた。
 結局、今回私が雨にしてあげられたこと以上に、彼女は私へそれを返してくれていた。



 もうすぐ夏が終わってしまう。
 今年の夏は、人の死を見たせいか私にとって冷たい夏になった。
 叔父の死や、あやかの事故。嫌な思い出は付き纏う。
 残り少ない夏休み、嫌な思い出を上書きするよう私は雨との楽しい日々で埋め尽くすことにした。楽しい夏の日々、人の死と雨との日々を天秤に掛けたら、恐らく雨との日々が勝つだろう。
 死が近寄ったせいで、死が重いものと感じなくなった私はやっぱり壊れているのだ。