「私は……大丈夫だった。それより雨は今、病人なんだよ⁉ 無闇に動かないで!」
「……そうね。でも――」
「でも、じゃない! 私が心配なのもわかるけどさ。雨には無理してほしくない……んだよ」


 言葉の最後の方で自然と涙が零れ出す。
 意味がわからない。今日は殴られて辛かったはず、あいつが事故にあって怖かったはず。もしも雨が無理をして、あんなことになったらどうしようと思って、怯えているのかもしれない。


「今日、あの女から殴られたの。その後、逃げた先でその女が事故にあった……それを見て、私、少しだけ気分良くなった。これでもう殴られなくて済むって! だけど、怖かった。逃げてきたの!」
「そんな事が……」


 ベッドの脇で啜り泣く、私の頭を優しく雨は撫でてくれる。


「私は奏が事故に合わなくて良かったって思ってる。その女生徒が事故にあったのは私のせいね」
「……なんで、そんなこと言うの。雨のせいなんかじゃ――」
「私に近づく人は不幸になる。そうだとしたら、そんな気がしない?」
「そんなわけない。私は雨がいてくれて幸せ。だけど、今でも死にたいって思ってる。雨が悲しむのは、そう思ってしまうのは私のせいだから」
「……ごめんなさい、失言だった。だから、死にたいなんて言わないで」


 赤い眼に悲しみが映る。
 深い悲しみの目、真っ赤な目なのに海のように深い悲しみがその中にはあるような気がした。