臆病な性格は私の言動すらも変えてしまう、だからと言って見逃してもらえるほど、現実が甘くないことはとうに知っていた。


「宮城への借りはあんたに払ってもらう、停学処分の借りをね」


 雨に何をされたのかまでは聞いていないけど、こんなのは完全な逆恨みだ。
 私への行き過ぎた暴力が学校側へとバレたのならば、退学になっていてもおかしくないはず。しかしあやかは停学処分で済んでいる、明らかに何かがおかしい。
 あやかの後ろ盾に何かがいるのか、停学には私へのいじめは関係ないのか、雨がその程度の罰を下したのかは知らない。


 しかし、今はどうでもいい。
 今、私がどうしても許せないのは、家で苦しんでいる雨から私を遠ざけることだ。


 人がほとんどいないビルとビルの間の路地。そこまで狭くはないが、広くもない。
 話をするだけならここでもいいだろうに、それでも奥へと入りこんでいく。


「離し……て」


 か細い声で懇願する。
 受け入れられないとは思っていたが背中を向けたままのあやかは意外にも、その場で手を離してくれる。


 しかし次の瞬間――


「ふぅッ!」


 あやかは振り返りざまに、勢いの乗った拳を私の右顔面へと叩きつけてきた。


「――――」


 実際に何が起こったのか気付いたのは、この感覚を味わってから。