なんで、どうして。


「そんなに目を見開いちゃって、それほどあたしに会いたかった?」


 こんな最悪のタイミングで、


「くくく……違うって言いたそうだね。でも、あたしは会いたかった」


 なぜ、あやかが私の前に現れるの?


「そんなに嫌がることないじゃん? ねぇ」
「っ離して……!」


 取られた腕を力いっぱい振り、引き剥がそうとするが、


「随分、反抗的になったじゃない?」


 元の力が弱いせいか、あやかの手を振りほどけない。
 それでも腕を振り続けようとしていると、


「うっ……く」
「……ここじゃ人目があるからさ、あんたも嫌でしょ?」


 手首を強く握られ、振ることすら困難になる。
 あやかの言っている意味は理解できた。この辺りには学校の近くにある高架下のような場所はない、けれど人通りの少ない路地裏というのはたくさんある。恐らくそこへ誘い込みたいのだろうが、私には家で待ってくれている雨がいる。
 この誘いには何が何でも乗るわけにはいかない。


「……何が欲しいの?」
「いいから来いっつってんだよ!」


 先程のにこやかな顔とは打って変わり鬼のような形相を作る女。人通りの多い場所なのに気にせず大声を上げるというのは、相当に怒っている証拠だった。
 通行する人々の目がこちらへ向くのがわかる。誰もが見て見ない振り、酷いものだとスマホのレンズをこちらに向けている人も見受けられた。


 不快だ、もしかしたら映像や画像がネットへとアップされるかもしれない。早くこの場から、この女から逃げなくては。


 でも体は動いてくれない。
 怒りの籠もった声に私の体は正直で、小刻みに震えている。
 さらにグッと力を入れられ、引かれる右手。向かうのは細い路地。


「あの……今度なら付き合いますから……」