今、ここで訂正しよう。
 私が感じた雨の悲しげな表情が本当の彼女の気持ちかまではわからないけど、私は伝えなきゃいけない。


 雨はいつも私の欲しい言葉を汲み取ってくれる。だけど、それだけじゃ雨から受け取ってばかりでとても対等になんかなれない。だから私も雨のことを、もっと知っていきたい。
 もっと仲良くなりたい。


 伝える。その行為はとても簡単なことのはずなのに、さっきよりも心拍数が高鳴るのを感じた。彼女はそんな私に何も言わず、静かに待ってくれる。その無言が、私に息を整える時間を与えてくれた。
 それからすぐに、しかしゆっくりと、私は口を開く。


「……雨、私……一緒に行きたいよ」


 これは私の本当の気持ち。


 その言葉を伝えた時、無表情な顔の奥、彼女の赤い眼が少しだけ揺れた気がした。
 本当はそんなことないのかもしれない。でも、なぜだか雨が私の言葉で喜んでくれていると確信が持てた。
 だから、多分……ううん、きっと。


 嬉しいわ、奏って、そう言ってくれる。
 沈黙は数秒。その後、雨は私と同じようにゆっくりと口を開いてくれた。


 相変わらず無表情で。
 何を考えているのか読めなくて。
 普通の人からは無愛想にしか見えない、そんな彼女だったけど。
 それでも、私にはなんとなく――


「嬉しいわ、奏」


 赤い眼の奥で雨が笑っているように見えたんだ。