「そう……残念」


 無表情な顔の向こう側が、一瞬だけ見えた気がした。
 違う、表情はピクリとも変わっていない。でも、本当になんとなくだけど、私にはそんな気がした。とても残念そうな……悲しそうな雨の顔が見えた気がしたのだ。
 咄嗟に口を開く。


 訂正して、今ここで訂正するの! 声を出して、お願い! 行きたいって言うの!


 だけど、口がパクパクと開くだけで喉の奥から声が出てこない。


 雨の本当の気持ちが見えた今、ここで勇気を出さないなんて後悔する。雨はきっと、本当に私と一緒に行きたいって思ってるんだ。だから、声を……声を出して!


「……奏、無理しなくていいわ。どちらにせよ明日は天気が良くな――」
「っ――! 無理なんてしてないっっ!」


 大声と共にテーブルへ両手を付き、私は立ち上がった。食べ終わった食器たちが一瞬だけガシャンと音を立て、部屋にまた静寂が戻ってくる。


 座ったままの雨と私の視線が絡む。
 誰かと視線を合わせるのは怖い。だけど、目の前にいる雨の目はとても優しくて本当の気持ちを告げることができそうだった。