「雨……雨……! ごめん、ごめんなさい! 私、雨に感謝してるの! 私の為にいろいろやってくれて、雨はどうしてこんなに私に優しくしてくれるのか、わかんなくて……。持ち上げて持ち上げて、落とされるんじゃないかって怖かったの!」


 言葉が止まらない。涙を拭いながら私は彼女の腕の中で子どものように泣き続けて思いの全てを吐き出す。


「でも、雨は……雨は今日も私を助けに来てくれた! 朝だってあんなこと言ったけど、本当は雨と仲良くしたいの。喫茶店だって本当は一緒に行きたかったの!」


 引かれるかもしれない、けどそれでもいい。本当のことを言いたかった。
 今ならきっと、言えるはず。絶対に、ぜったいに言えるから。


 少しだけ呼吸を整え、わずかに無言の時間が流れる。
 そして静寂を打ち切るようにゆっくりと私は口を開き、言葉に想いをのせて、彼女へと伝える。


「ずっと言いたかったの……」


 顔は涙と鼻水でくしゃくしゃだっただろう。けれど私は今、自分ができる最大限の笑顔で、


「雨、本当にあり……がとう……」


 彼女に感謝の言葉を伝えられた。


「……奏、嬉しいわ。そう言ってくれて」


 雨の顔はよく見えなかったけど、いつもと同じような無表情で頷いてくれる。きっと、彼女は私の気持ちを知っていたんだと思う。でも、私の言葉を待っていてくれたんだよね。


 あぁ……こんなに清々しい気分なら、もう……死んでもいいかもしれない。
 やっぱりそう思ってしまうのは、私が既に壊れてしまっているからなんだろうか。



 そしてあの夢は一体、なんだったんだろう? そう思っていたはずなのに、夢から醒めて少し時間が経ってしまうと記憶は急激に失われ、家に帰る頃にはもう思い出すことはできなかった。