その言葉に一歩遅れ、電車がホームへ入ってきた。
 学校の最寄り駅まで走る電車。その扉が開くと、人の群れが外へと出ていく。
 流れが途絶えると雨は電車の中へ乗り込んでいき、私もその後を追うように乗り込んでいった。そして、隣同士に座席へと腰を下ろす。


 さっき、雨の言ってくれた言葉は全て、紛れもなく私が欲しい言葉だった。
 何度同じことを繰り返せば気が済むの? また罪悪感に苛まれたいの? 心の中で自分に言い聞かせるように、私は目を閉じる。
 今なら訂正できる、今なら間に合う。前にも同じことがあった、ここで訂正しよう。
 目を開け、私の中のほとんど無いであろう勇気を少しだけ振り絞る。


 右をチラリと見ると、隣に座る赤い眼を持った女の子の横顔が映った。心臓が少しだけ高鳴るのを感じるが、もう私は止まらない。


 ――さっきの言葉を訂正させて欲しい。私も雨と話したい。もう少し、仲良くなりたい。
 たったそれだけ、それを伝えればいい。


 ゆっくりと口を開き、言葉が紡がれる。


「…………行かないかもしれないよ。それでもいいの?」


 これが私の最大限の言葉だった。機嫌が悪いようにしか聞こえない低い声、もっと言い方はあったはずなのに、どうしてか素直な言葉を紡ぐことができなかった。
 そんな訂正ですらも、可愛げもなにもない最低な言葉だったけど、


「ええ、気が向いたらでいい。待っているわ」


 雨はこっちを向いてくれて嫌な顔一つもせず、二つ返事で頷いてくれたのがなんだかとても嬉しかった。