そう雨が言うと、私の両頬が温かい手に包まれた。顔が、目線が、上げられる。
 目が合い、視線が交わる。
 雨の目、真っ赤な眼。威嚇した猫のような細い瞳に、私は心が奪われそうになる。じっと見つめてくるその不思議な瞳は、私の頭にある視線を逸らすという行為を忘れさせた。


 なんて綺麗で、透き通った目なんだろう――


 心の奥まで見通しそうな妖美な眼。この眼を、私は随分前にもどこかで見たことがあるような気がした。
 記憶を辿るけど、多分入学式の日でぶつかった時だと思い込む。


「死なないで、殺してなんて言わないで。ずっと私が守るから」


 なんでそこまで言ってくれるの、どうしてここまで私なんかに本気になれるの、雨の気持ちってどこから来ているの? 雨の言葉と顔には感情がなく、私には何もかもがわからないままだった。
 きっと、死にたいって気持ちは変わらない。雨には悪いけど、これから先も変わらないかもしれない。
 だけど、その日から私の見ている世界は大きく変わることになる。
 帰り着いた家。私が扉を開けると玄関には、うつ伏せでピクリとも動かない叔父が転がっていた。