その日からしばらく経ったある日、試合が近く遅くまで練習した部活帰りだった。ボサボサ頭、ヨレヨレの制服姿、全身から出る疲労感で玄関に脱いであった靴の数の多さに気がつかないで、リビングに入っていった。
『お帰り』
ソファの背に腕をのせて振り返っている人に、思わず2度見して叫んだ。
『晶兄⁈』
『ノンちゃん、僕のこと晶兄って呼んでくれるんだ。嬉しいな』
『えっ、えっ、…なんでいるの?』
晶兄が家にいる事にパニックった私は、肩にかけている重いカバンを持ったままのヨレヨレの自分の姿を忘れて、乙女になって口元を手のひらで覆った。
『久しぶりに淳弥とゲームしようって話になってね。ノンちゃんにも、久しぶりに会いたかったし、来ちゃった。それにおばさんの美味しいご飯も食べたかったんだ』
対面式のキッチンの向こうにいる母を一度見た晶兄に、照れてる母の姿は、見なかったことにして、会いに来てくれた嬉しさに頬を染めた。
『ノンちゃん、バスケ部なんだって⁈俺たちの後輩になるなんて、嬉しいよ。あっ、顧問ってまだ柄本先生なの?』
『…あっ、うん。一緒にコート内走り回って指導してくれるよ』
『あの先生、まだ現役とか尊敬だわ』