「まさか、これから会うっていう相手は、男か?」

誤解された方が、晶兄に呆られて、もう会いたいと思わないだろうと思ってしまった私は、遊び慣れた女を演じようとなぜだか思い、スラスラと嘘が出てくる。

「そうだよ。今日の彼は大企業に勤めてるエリートなんだ。合コンで知り合って、タイプだから、たまにデートしてるの。今のところ、彼以上のいい男がいないから、キープなんだけどね」

だからね…って言おうとしたら、運転席と助手席の間から、後部座席に向かって体を屈めた晶兄が手を伸ばしていた。

その手が、私の後頭部を掴み引き寄せられた瞬間、唇に柔らかい物が触れていた。

それが晶兄の唇だとわかった途端、戸惑いつつ受け入れている。

言ってることとやってることの行動が伴っていないってわかってるけど、好きな人にキスされて拒めるわけがない。

彼のスーツの襟を掴んでキスされるまま夢中になっていく。

経験なんてない私は、受け身だ。

それがおもしろかったのか、晶兄は唇の上でクスリと笑い、かかる吐息にゾクリと肌が泡だった。

それから、名残りおしそうに唇が離れ、濡れた唇を晶兄の親指がなぞっていった。