「...いやだ...!!」

 無駄だとわかっていても、抵抗してしまうのはなぜだろうか。
 引っ張られる方向とは逆の方向に自分が引っ張る。しかし、男はまた強引に、さっきよりも強く私の腕を引っ張る。
 それを繰り返しているうちに、気付けばもう家についてしまっていた。
 なんて馬鹿なんだ自分は。抵抗なんてしても何にもならないのに。もっと他に良い方法があったかもしれないのに。
 そのくらい、頭が働いていなかった。いや、もう考えるのが面倒になっただけかもしれないが。
 ...そうか。面倒だ。もう何もかも面倒だ。そして無駄だ。頭のどこかでは、それがわかっていたんじゃないのか。
 考えても答えは出ない。
 抵抗しても何も変わらない。
 無駄なだけだったんだ。
 そんなことを考えているうちに、男と私は家の中に入る。
 もう抵抗などしなくなった私に目もくれず、男はリビングに向かっていく。
 そして、倒れた食器棚を見つける。

「なんだこれは!?」

 やっぱそうなるよね、などと呑気なことを思っている私は、少しおかしくなってしまったのかもしれない。

「お前がやったのか?!」

 胸倉をつかまれる。
 いつもならここで恐怖を感じ、絶望してしているところだが、なぜか何も思わなかった。

「......」
「この...!!くそ野郎が!!!」