「そんなに僕のことが好きだった?」





 明日、隣でブランコを漕いでいるこのイッサが、遠い町へいなくなる。

 歯を食いしばったまま髪を振り乱す私の全部を受け止めているみたいに、そんな質問は卑怯だ。全くもってフェアじゃない、怠惰な命のあてこすり。

 眉間に皺を寄せて水溜りに足を突っ込んで蹴飛ばしたら、上履きが泥水で濡れてしまった。

 私が傷つくのを恐れて隠していたすべて、そう例えば家族とか友人とか、先生とか。そのすべてを否定して投げつけた罵詈雑言、それは槍の雨のように自分に降り注ぎ、そのナイフの形をした矢がすべて降りかかってきた。



 言葉なんて持つべきじゃなかったんだ。

 悲しそうな顔をしたひとりひとりの顔の皮が剥がれてのっぺらぼうになって、だから私も私を剥がさなければと脱皮をしようとしてみたの。でも叶わなくてね。

 心持ち自分でね。

 イッサ、あなた私が平気だと思ってるでしょう、乗り越えられると思ってる。忘れない。忘れたことなんてない、一度として。あなたと交えた傷、声、目線、そのどれも。抱えた瞬間から手放せない、なかったことになんか出来ないんだよ、それは与えた方が実はずっと握っていたりもするんだよ、知らないんだろうけど、ってねえ。



 あんたは笑うかもしれないけど。



「好きじゃない」

「そう」

「どこへでもいけ、おまえなんか」


 ああ。

 ほらねまた、まちがえる。