今は午前中の間だけ、業務に支障が出ない限りパソコンの勉強をしてもいいことになっている。
これからは計算も文書作成も書類のやり取りもパソコンを使って行ってほしいとのことだ。
あたし達より上の人間は無理して覚えなくてもいいらしいけど、あたし達は強制的に覚えなきゃならないらしい。
世の中がどんどん便利になるっていうけど、便利さは必要な人間だけ受け取ってくれ。
コップ洗いから戻ってきた横内明日香が目を合わせるなり、口だけ動かして何かを伝えてくる。なに? うんこ? わけわかんねえ。
「ごうこん」
言葉の意味がわかった瞬間、目が吊り上がる。行かねえって言ってんだろうが。
その日、仕事が終わってコンビニに寄って、アパートに戻っていつも以上に平野君の部屋から物音がするか耳を澄ませた。
今日の朝、あたしは余計なことを言ったんだと思う。
あの驚いた後の顔は泣きそうで傷ついているようにも見えた。
平野君の両親も6月の最初に来てから見ていない。
玄関先でも部屋の中でもマダムの甲高い声がすればすぐにわかるのに。
もしかしたら平野君、ホームシックになってないか?
一人暮らしを始めて半年だもんな。
訪ねてくる友達がいないなら寂しいよな。
「……おーい、大丈夫かー」
壁に声をかけてみたけど、返事はなかった。なにやってんだ、あたし。恥ずかしい。

