星空とミルクティー



職場でのお偉いさんの年始の挨拶が済んだ後、営業の面々が慌ただしくフロアから出ていく。

総務以外のメンバーが出払ったところで、給湯室に溜まったコップの山を片付けるために席を立った。

年明けでもやることはほとんど変わらない。


給湯室の時計を見ると、11時になろうとしていた。
真雪は大丈夫なのか。
連絡を取りたい衝動に駆られる。



「手伝おうか?」



声とともに横内明日香が顔を覗かせた。



「おー、助かる」



水切りかごに積み重ねたマグカップを拭くように頼むと、横内明日香があたしの隣に並んだ。



「あのさぁ、汐、もしかして彼氏できた?」

「いや、なんで?」

「年明ける前、男の人と手繋いで歩いてるの見たから」



ドキッとした。
田舎者の生活範囲の被り具合を舐めていた。



「……あー、あれは別に彼氏じゃない。弟みたいなやつ。雪で転びかけたから手ぇ繋いでもらってただけ」

「ふぅん。石川さんはもういいの?」



懐かしさすら覚える名前を出されて、さらに心臓が飛び跳ねた。
真雪のことで頭がいっぱいで、忘れかけていた。



「もういいっていうか、始まってすらなかったし。付き合いたいほど好きってわけでもないし」

「じゃあまた合コン誘っていい?あれ、いとこはもう大丈夫なんだっけ」

「……あぁ。まぁ、気が向いたらな」



食器棚にマグカップをしまいながら、心にもない言葉ばかり並べる。
嘘をつくのは疲れる。