「……店出る前に言えよ」
「ごめん」
誠意の感じられない謝罪を受け取って、みぞおち辺りにかるくパンチを入れる。
クスクスと笑いながら、2発目は避けられた。
「汐、俺が汐の部屋に居候してから、いくらくらいかかった?」
「あ?」
息切れをするあたしに合わせているのか、真雪の歩くスピードが遅くなる。
「食費とか光熱費とか、俺の部屋の分の家賃も払ってくれてるでしょ」
「……なんで?」
「給料出たら返そうと思って」
「まだ働いてねえじゃん」
「そうなんだけど」
「その話は出ていくときでいい。今急に言われてもいくら使ったかなんてわかんねえ」
隣を歩く真雪を追い抜く。意味わかんない。なんで今そういう話になるんだよ。
まだ働いてないくせに。給料だってもらってないくせに。
「わかった、」
後ろで真雪の声がする。
「なるべく早く出ていくようにするね」
たぶん真雪なりに気を遣って言ったのだと思う。「迷惑かけてごめんね」に聞こえる。それが腹立たしい。
「そんなに嫌か。あの部屋にいるの」
「え?」
振り向いて尋ねると、ちょうど通り過ぎた車の走行音で聞き取れなかったのか、真雪が首を傾げた。

