空いた皿を持って、父が真雪をカウンターへ案内する。
過保護な姉の気分で、父の後をついて歩く真雪を見つめる。真雪のことを何も知らない父が、なにか失礼なことを言い出さないか不安だった。
それで真雪が早く部屋を出たがるようなことがあれば、あたしはきっと父を恨む。
カウンター席に向かい合いながら座る父と真雪の姿を眺める。
話し声は何も聞こえない。カウンターから一番離れたところに座るあたしとは距離があるせいで、表情もよく見えない。
他にも客がいるからか、面接はあっけなく終わって真雪があたしのところに戻ってきた。そもそもこのかたちが面接かどうかも怪しい。
「おかえり。どうだった?」
「うん、年明け、4日から働くことになったよ」
「そっか、おめでとう。他はなんか言ってた?」
「他? 勤務時間は8時半から午後4時までとか?」
「……へえ」
本当に雇用内容しか話していないようだ。それならよかった。
ほっとしていたら、トレーを持った父がまたこちらにやってきた。ーー今度はなんなんだよ。接客スマイルが胡散臭い詐欺師に見えてきた。
「はい、これサービスです。1月からよろしくね」
真雪の前に、生クリームを添えたガトーショコラとホットコーヒーが置かれる。
「あたしには?」
「汐にはコーヒーだけだよ」
「なんでだよ」
親子のやり取りに真雪が吹き出した。
すぐに姿勢を正して「すみません」と頭を下げる。
「あぁ、そうそう、これも渡しておくね、連絡手段がないって言ってたし」
そう言いながら、父がエプロンのポケットから携帯を取り出す。
「店の番号が入ってるから、休みの連絡はこれでお願い」
「ありがとうございます」

