「何も言ってないのに」
「なんか言いたそうな顔してた」
「ずいぶんカッコイイ子だね」
「つうか、あれが同居人だから」
「ん?」
「前に話した、面接してほしいって言った」
「隣の部屋の?」
「そう」
「体調不良で、面倒見てるっていう」
「うん」
「……男って聞いてないよ」
「言ってなかったっけ」
「言ってない」
みるみるうちに、からかっていた父の目に動揺が混ざる。
「……面接、今日でもいいかな」
「え、今日? 急すぎない?」
「俺ね、一応親で、汐は一人娘だからね」
「……いやいや、真雪とは本当にそういうのじゃないって」
「むしろ付き合ってないのに、1ヶ月近くも一緒にいるっていうのがね。汐の部屋、ワンルームでしょ」
「じゃあ雇ってさっさと自立させてやってよ」
何もやましいことをしているわけじゃないのに、咎められた気分だ。ついムキになって心にもないことを言ってしまった。
父がふぅっと深くため息をついた。その姿がさらにあたしをいらつかせる。
「そうだね」
後ろを振り向いてあたし達の座っていた席を見る。
背中を向けて座っている真雪がどんな顔をしているのか、当たり前だけどわからない。
薄いミルクティー色の髪しか見えない。

