「おいしいね」
真雪の言葉で現実に引き戻される。
曖昧に笑って頷いてみせると、真雪も満足そうに目を細めた。
ハンバーグを頼んだのは失敗だった。
嫌でも一番忘れたい記憶が出てくる。これはあのときに食べた味とは違うのに。
食前に飲みすぎた水のせいで、トイレに行きたくなってきた。
席を立ってカウンターまで進む。そこを左に曲がるとトイレがあるのだけど、カウンターに立つ父と視線がぶつかった。
おわ、何か言いたそうな顔……。
含み笑いのような、からかいの目で見られる。
真雪のこと、彼氏だとでも思ってるんだろうか。
用を済ませてカウンターを見ないようにしていると、
「汐」
と呼び止められた。
「……彼氏じゃねえ」
錆びたロボットのような動きで首を向ける。
にやにやとほくそ笑む父の顔を見て、自分が思春期に戻ったような恥ずかしさが蘇る。そういえば、昔、彼氏と呼べるか微妙な関係の奴を一度だけ連れてきたことあったな。あのときも父はこんな顔だった。

