星空とミルクティー



 あたし達が遅い昼食を食べている横で、まるで示し合わせたように他の客が入れ替わり始めた。

 さっきまで向かい合って座っていた女の子達の席には、常連客らしい老夫婦がメニューを見ずに注文をして、読書をしていた若者が席を立ったかと思うと、今度はやたらと恰幅のいいスーツ姿のおじさん2人組がそこに座って、店の平均年齢が一気に上がった。

 その中で父が忙しく動いているのを見ると、やっぱりどうしてももう1人くらいは雇ってほしいと思う。



「……すごい、忙しそうだね」



 あたしの視線の先を読んだのか、真雪がぽつりと呟いた。



「これを汐のお父さんが1人で対応してるの?」

「うん、10年以上も」

「すごいね」



 ーーすごい。真雪みたいにそうやって素直に言えたらよかった。
 父の手伝いだって、本当ならあたしだってやろうと思えばやれたはずだった。そのために調理の専門学科に行った。

 男で一つで育ててくれた父に恩返しがしたかった。
だけど父は、あたしがここで働くことを嫌がった。「汐が好きなことをしなさい」と優しく言われて、唯一できたことが「親元を離れて自立すること」だった。
 結局そういう、当たり前のことしかできなかった。

 遠い昔、母親だった人から言われた言葉が、今でも頭と心にこびりついて消えない。