「おいしいですよね、それ」



 あたしが皿を見つめていると、柔らかく笑いながら目の前の人が言った。



「そうですね、おいしかったです」

「俺たち2人しか料理を食べていないから、ウエイターさんも最後の料理、どのタイミングで出せばいいか困ってる」

「え、今持ってきてほしい……」



 思わず本音をつぶやくと、はじけるように笑い出した。

目の前の男の人以外が静まり返る。空気が変わる。

「なに、どうしたの」と横内明日香が不安げにあたしを見た。なにもしてねえよ。


「結城さんがさ、最後の料理食べたいんだって。みんな早く食ってよ」

「え、あ、いや、」

「あーごめん、盛り上がりすぎちゃったね」

「汐、そんなに食べたかったんだ? ていうか最後ってなに来るんだっけ、説明あったっけ」



 デブリも横内明日香もうるせえよ。盛り上がってんのはお前らだけだろ。

いきなり話題の中心に立たされて恥をかいた気分だ。タダ飯食いに来ただけなのに。さっさと帰りたくなる。

 目の前の男の人が「ごめんごめん」と申し訳なさそうに眉を下げた。悪気があって言ったんじゃないんだろうけど。


 途中で帰るのも大人げないと思って、ドルチェまできっちり食べて店の前で解散した。

解散というか、デブリが今回の合コンについて総括をたれているうちに、誰かに何か言われる前に逃げた。




 あー……、ヒールで走ったせいで足痛いし、食べた直後だから脇腹も痛い。

料理はまあまあおいしかったんだけどな。楽しみにしていたドルチェは冷たいだけで味がしなかった。

前の席の人がいらないことを言うから、自分の食べ方が気になってゆっくり食べられなかった。

チョコレートとバニラアイスのミルクレープみたいなやつ。ドライアイスのドームに入っていてすごかったのに。



 駅の改札を抜けるために定期券を探す。

こういうときに限ってなかなか見つからないんだよな。

帰り、コンビニに寄ってお菓子買おう。気分転換&口直しだ。



「結城さん!」



  急に名前を呼ばれて振り返ると、食事中ずっと目の前にいた相手が今度はあたしの後ろにいた。