あたしの視線に気づいてナプキンで口を拭う。

育ちがいいんだろうな。骨付き肉の食べ方綺麗だし。
あたし、場所がここじゃなくて居酒屋だったら手で食べてたよ。



「いえ、何か飲みますか?」



 メニューを手渡す。

伏し目がちになったとたん、頬の真ん中までまつ毛の長い影が伸びた。すげえ……。マスカラいらずじゃん。



「結城さんは決まってますか?」

「へ? あ、はい」



  最初の一度しか自己紹介していないのに、名前を覚えてもらえてびっくりしたし、少し照れる。



「じゃあ」



 自然な動作で片手を上げてウエイターを呼ぶ。

こういう場所に慣れているのだろうか、何から何まで動作が綺麗だった。

バレエでも見てるようだ。

途端にこの人の前で料理に集中していたことが恥ずかしくなる。

マナー違反はしていなかっただろうか。
向こうの皿と正反対に、自分の皿のソースが汚く伸びているところなんかが目に入って、顔が熱くなる。