ありがとう、と言いたい気持ちをぐっとおさえて、階段を駆け上がっていく。 早く逃げないと、そして連絡を待つんだ。 彫刻刀の入っている側とは違う方のポケットに入れた携帯。階段を上り終えると今度は一直線に走る。 鬼の足音を聞くため、途中の女子トイレに逃げ込んだ。 足音は、…………うん、来てない。 スマホを取り出すと、私は入川くんの連絡先の画面を開いた。まだ連絡は来ていない。でも、大丈夫だ。 さっきより心強いから。 私は一人じゃないって、思えたもの。