「もう不安じゃないよ」
「うん」
「辛くないから」
「うん」
凛上が私の言葉に一つ一つ、丁寧に優しく相槌を打ってくれるから、そのせいでまた気持ちが大きく揺さぶられる。
「よくやった」
「犬じゃないんだから」
私の頭に乗せてわしゃわしゃと撫でる、大きな手も。
「ごめん、こんなに忘れてしまうものだなんて思わなくて」
「いいよ。そういうもんだよ」
いつまでも泣いていてはいけない。子供扱いされたら困る。
分かっていても凛上が触れていてくれるだけで嬉しくて、安心してしまって。私は凛上に手放されることも、彼を手放すことももうできないだろう。
この人は私が思っているより策士だ。きっと最後に連れていきたい場所も、あの海の見える場所だったんだろう。私に全てを思い出させるためのデートだったんだ。
そして結局、彼の望む通りの結果になるのだから仕方がない。