最後の悪夢


「うん」

「料理もおいしかった。女将さんもすごく優しかった」



水彩の絵の具で描かれたみたいな柔らかくて、鮮やかな色の景色が、私の頭に浮かんできた。私達は二人で旅館にいて、笑いながらお互いの顔を見つめているんだ。

そんな景色を想像していたら、胸の奥でパチパチと火花のようなものが散るんだ。温かい光は私を閉じ込めた檻を少しずつ溶かしていく。優しい思い出の火花。


「幸せだったな」


凛上は本当に幸せそうに微笑んだ。
あの時の私も幸せだったと思う。こんな人に愛されて幸せだった。



ああ......なんでだろう? 目の奥が熱い。


「三日目はさ、二人でお泊りしたんだ」




『海見える? きれい?』

『うん、見える。きれい』

『見に行く?』

『え! 行きたい!』


いつの間にか不安が消えていた。
ああ私、この人だから訳もなく好きになったんだなって思った。