「ねえ、凛上くんは、走ったらどうなるの?」
「足が動かなくなった。気分も悪くなった」
「いつの話?」
「ホテルにいた夜中の話だよ。旭が一人でゲームで捕まってたとき。幻滅した?」
情緒不安定。ハイになって笑って尋ねる。
旭はどこまでも真っ直ぐな目で俺を見て、少しもふざけなかった。
「ううん」
波の音が遠くで聞こえた。
旭の声は俺のすぐ前にあった。
「もう一度走る?」
なにを言われるよりも怖かった。衝撃的だった。それまで自分を焦がしそうだった体の熱が、俺から離れていくのを感じた。
「足が動かなくなるなら私が引きずってでも帰るよ。気分悪くなったら休んでいいから」
「……」
「大丈夫。まだ、死なない」
旭は笑った。優しかった。
俺は、走れないのは死ぬことだと思っていた。



