いつだったか海に来たことがある。中学生のうちに。ああ、一年生の時か。
仲良くなったクラスの奴に誘われて、海に行って濡れて帰ってきたんだ。夏の日だった。次の日は風邪を引いた。
砂浜は足がとられる。でも走る練習には持ってこいだ。海が近い学校の運動部は砂浜を走って練習するってよく聞く。
『凛上、砂浜ダッシュしよ』
と、自信満々で言ってきた奴にも俺は負けなかった。俺は本当に強かった。最強だった。
もっと、もっと……もっと。
本当なら今でも、走ってるんだろう。波に向かって走り出しても、おかしくない。
砂糖の山に匙を刺すような音を立てながら、砂を踏む。
旭は濡れた砂の手前まで来ると、白いスニーカーを脱いで、靴下も脱ぎ始めた。俺も赤くくすんだ色のスニーカーと、靴下をを脱ぐ。



