「名前で呼んでくれたの初めてじゃない?」
笑いかけて旭のいる窓際に向かう。いきなりのことで「え? そう?」と旭が不安そうな表情を崩した。そのまま俺は畳み掛ける。
「海見える? きれい?」
「うん、見える。きれい」
「見に行く?」
旭は目を輝かせた。
俺は旭の座る椅子の隣に立っていた。
「え! 行きたい!」
嬉しそうに笑った彼女に俺も自然に笑みが溢れた。
「夜まで時間あるし運動もしないとな。ずっと寝てたし俺ら」
「あはは、そうだよね」
「準備しよっか」
「うん」
嘘はついていない。
ただこれ以上旭に心配されたら、余計なことまで喋ってしまいそうで怖かった。



