最後の悪夢


旭に嘘はつきたくなかった。無意識か。あのときは咄嗟に言ったことだ。なにも考えていなかった。

旭の声が震えていた原因は分かった。恐らく泣いているのだろう。なんでかな、なんでだろうなあ。


俺は、なるべく丁寧に旭に伝えた。



「でもやっぱり走らない。ゆっくり歩くから」

「うん」

「寝てていいよ」

「うん……ありがとう。本当に」



俺まで泣きそうだった。


涙を堪えて旭を背負って歩いた。背中が温かかった。旭の「ありがとう」という言葉が、俺にはかなり重い言葉のように感じた。

俺はもう走らないと宣言した。
俺はもう走らない。辛いな。辛い。こんなにも辛い。

認めたくなかった。苦しかった。今までも認めたら終わりだと思っていた。まだ頑張れるって。