最後の悪夢


久しぶりの、懐かしい感覚。
なんとも言えない匂いがした。

ふわりと香るそれは、石鹸のような、柔軟剤のような。どこか落ち着く爽やかな匂いで。


「俺らができることはもうやったよ。花巻も喜んでたよ」



空いた首もとで揺れる凛上の黒髪がくすぐったい。

涙が止まらない。
喜んでいた? 本当に、そう思う?



「ありがとうな。優しいもんな、旭。お前は……、生きてくれてるだけでいいんだよ。もう、大丈夫だよ」



今度は私が凛上の背中に手を回した。
優しくないよ、優しくないよ。優しいのは凛上のほうだよ。

私のこと守ってくれてありがとう。
迷惑ばかりかけてごめんね。