名木田が扉に向かったあの瞬間、私は名木田らしいなと思い、安心した。
他人事だけど。他人事だったけど。心が軽くなった。
彼が渋っていたのは、最初からこうしようと考えていたからなのかもしれない。心のどこかで。
こんな状況でも、誰かを思いやる気持ちを持つ素敵な人がいるんだなと。
その存在に私は救われている気がした。
心が洗われたような気がした。
同時に感じた。
私はおかしいんだと。
誰かが助けを求めていたって見殺しにできてしまう気がした。
誰かを殺すことさえできてしまう気がした。
いつか道を踏み外しそう。
人の形をした化け物になってしまいそう。
ああ。
その時はいったい、
誰がそばにいてくれるのだろう。



