運命の一夜を越えて

「病院についたぞ。動けるか?」
いつの間にか開いている助手席のドアから、瀬川渉は私を覗き込んでいた。

「・・・ごほっ・・・」
返事をしようとして咳をした私に「あー話さなくていい。支えるからゆっくり立って。」と彼は手を伸ばす。

シートベルトを外すと彼は私の足をひょいっと持ち上げて体の向きを変え車の外に降ろすと、グイっと肩を抱いて立たせてくれた。

至近距離の彼から、かすかにまた太陽のような、あたたかな香りを感じながら私は痛む体に力を入れた。

「ゆっくりでいいから」
そう言って私を支えてくれる彼の力は、再び私の足を宙に浮かせているくらい、強い。

連れてきてくれたのは大きな病院で、ロビーに入ると彼は私をベンチに座らせて、持ってきたダウンジャケットで私の体を巻くと、受付に行って状況を私の代わりに伝えてくれた。