運命の一夜を越えて

「渉、パパ1歳おめでとう。そしてありがとう。

私たちの子は元気?夜泣きはしてない?ミルクはちゃんと飲んでくれてる?
離乳食は嫌がってない?
渉は子育てと仕事の両立で疲れてない?苦しくなってない?

この動画はお母さんにお願いして体調のいい時に撮影しています。
見てわかる通り、まだ私たちの赤ちゃんは私のお腹のなか。
まだ性別もわかっていません。

2週間前、私が呼吸困難になっちゃって、うまく呼吸ができなくなってしまったから、話が聞きずらくてごめんね。でもどうしても渉に伝えたいことがあります。

私はがんになって、子供は産めないって思って生きてきました。まさかの奇跡でこの子を授かれたけど、命を生み出すことはできないと思っていました。だから、誰かと真剣に付き合うことを避けて、距離をとって、一生一人で生きていくんだって決めて生きていました。でもそれは完全なる強がり。渉と出会って、本当は誰かを愛したり、誰かに愛されることに強いあこがれを持っていたんだって気づきました。ずっとずっと、そんな相手を探して求めていたんだって気づきました。」

彩はとぎれとぎれに一生懸命に話を続ける。
何度か動画を停止して撮影を再開しているのが分かった。
俺はひと言も聞き漏らさないように、すべての感覚を彩の方に研ぎ澄ませる。