運命の一夜を越えて

そのまま私は台所へ向かう。今は渉とあわせる顔がない。すぐにでもお礼を言うべきなのに、突き放してしまった時の渉を思い出すと、すぐには向き合えなかった。

山のようになっている洗い物を無くそうと、袖をまくりあげて、洗い物を始めた。

夕方までは同じ町内の人が手伝ってくれていた台所も、今は私しかいない。

減ってしまったおかずを皿に盛ったり、追加してつまみになるようなものをつくったり、洗い物をしたり、台所は忙しかった。

「彩」
空いた食器を下げに渉が台所へ来た。ちゃんと向き合わなきゃ。来てくれたのに…。

「今日はありがとうございます」
私は頭を下げてお礼を伝えた。

「仕事、忙しい時期なのに、無理させてごめんなさい」
どれだけ忙しい仕事を片付けてここに来てくれたのかがわかる。
「今夜お線香をあげたら戻って大丈夫だから。」
長居させてしまったら、渉に負担をかける。これ以上負担をかけるわけにはいかない。