運命の一夜を越えて

悔しかったのは、私たちが押し問答をしている間に、この男が勝手に会計をしてしまったことだ。

ラーメンなんて来なきゃよかった(おいしかったけど・・・)。

店の外に出てすぐに後悔しながらため息をついていると、目の前にタクシーが止まった。

「?」
頼んでいないのに。ほかの誰かのタクシーかなと私がよけようとすると、瀬川渉はタクシーに向かって手をあげて合図をする。

この男、タクシーまで頼んでたの!?いつの間に!?
圧倒されながら瀬川渉を見ると、変わらずに穏やかな顔をして微笑みながら私を見ていた。

「これ、俺の名刺。今日はもう遅いから、言い合いはおしまいな。」
瀬川渉は私の手に自分の名刺を握らせると、タクシーに向かって私の背中を押す。
「じゃあ、気をつけて。」
抵抗むなしく私は簡単にタクシーに乗ってしまい、「よろしくお願いします。」と瀬川渉は運転手に声をかけると、その直後、瞬時に私の首に自分のマフラーをぐるぐるに巻き付けてタクシーの扉を閉めた。