運命の一夜を越えて

「あっやべっ」
この男、合コンの時はよそ行きの愛想笑いで、言葉だって敬語で丁寧だったのに、私の前では明らかに”素”の言葉で話してくる。

「?」
突然、自分のワイシャツを見ながらおしぼりに手を伸ばす瀬川渉を見ると、その視線の先には盛大にラーメンの汁が飛んでいた。

「これ、新しいのにやっちゃたな。」
ごしごしと汁が飛んでいる場所を拭く姿に、つい私は手を伸ばしてしまった。

「拭き方がなってない」
ぶっきらぼうにそう言いながらも私は奪ったおしぼりでラーメンの汁をたたくようにして落としていく。
「怒られた。」
少し笑いを含んだ言葉が聞こえてきても私は顔をあげず、すでに少しシミになっているワイシャツを拭いた。