運命の一夜を越えて

「あーうまかったー。満腹。あっついな!」
瀬川渉はそう言って手で自分の額に滲む汗をぬぐった。

「よく汗かかないで食えるな」
「私、汗はあまりかかないので。でも熱いですけど。」
お互いに汁まで完食したどんぶりを前に私たちはふーっと食後の一息をついていた。

「うまかっただろ?」
「はい・・・悔しいけど。」
本心だ。

「ははっ。ここのラーメン、俺が学生のころから食べてんだけど、かなりうまいんだ。ここのラーメンくらいじゃないかな。ずっとあきないで通ってるの。」
「・・・」
「初めて自分の金で外食したのもここってくらい、ここのラーメンが好きなんだ。」
「・・・」
あまり会話に反応してしまうと、その相手との距離が近づいてしまう。
今までの経験でそう知っている私はあえてあまり瀬川渉の話に反応をしないようにしている。