運命の一夜を越えて

なんだか、まだ私は緊張している。

こうして自分の家族と好きな人が話をしているのは違和感でしかない。しかも自分が育った家だ。

「よろしければお線香、あげさせていただいてもよろしいですか?」
渉の言葉に母は嬉しそうに頷いた。

仏壇には祖父と父の遺影がある。
「彩さんに似てますね、おとうさん」
「そうでしょ?本当にそっくりだったのよ?性格まで」
昔からよく私は父親に似ているといわれていた。

「若くして亡くなったからこの写真も今の私よりもかなり若いでしょ?いつか私が死んだときに悔しいから、とびきり若い時の写真を使ってねって彩に言ってるのよ。」
そう言いながら父の遺影を見つめる母。

昔から本当に仲の良い夫婦だった。
父が亡くなった時、母は気丈にふるまっていたけど、相当落ち込んで、毎晩一人で声を押し殺して泣いていたことを私は知っている。
再婚もせず、父の両親と同居を続けた母の、父への大きな愛はきっと今でも変わらずにあるのだと思う。