「マリー、僕の話聞いてる?」

「だからマリーって呼ぶのはやめなさいって何度も言ってるでしょう」


命の恩人であり、育ての母でもある私のことを“マザー”や“お母さん”ではなく、呼び捨てするもんだからいっつも言って聞かせてるのに、一度もそう呼ばれたことはない。


一生呼んではくれなさそうだし、そろそろ諦めるしかないわね。

…それに、この子の気持ちには気づいてる。


「何、翡翠」


拾った時、元の名前は嫌いだから新しい名前を付けてほしいと言われ“翡翠”と名付けた私はずっとそう呼んでいる。

だから本当の名前なんて知らないし、この子も私も本当の名前なんかどうでもいいと思ってるから口にはしない。


翡翠と名付けたのは赤ではない、もう片方の瞳の色から。

赤い方も綺麗なんだけど、もう片方の瞳が翡翠のような美しい色をしていたからそう名付けた。

単純な名づけ方ではあったけど、翡翠も気に入ってくれたからそれでいいと思った。


「ねぇ、いつになったら僕の恋人になったくれるの?」


あぁ、恋人よりも結婚したいんだけどね。

と、なんてことないかのようにサラリと言ってのけた目の前の彼。
それはもう爽やかに笑っている。そして私はげんなり顔をした。