でも、それで翡翠が私のことを諦めてくれるのなら、そう思われたっていい。


「貴方にはもっと素敵な人が現れるわ」


翡翠にそっと近づいて優しく頭を撫でると、彼の左右色の違う瞳は私を映して切なそうな表情をした。


「マリーは酷いよ」


えぇ、本当にね。


「…狡いよ」


その通りだと思うわ。


「僕の気持ちを知ってるくせにそんなことを言うんだ…」


こう言うのは、私なりに貴方の為を思ってよ。翡翠には幸せになってほしいから。
私のことは、忘れて…翡翠。


「……分かった。じゃあ。幸せになってよね」

「そうね」


私も相手が貴方じゃないと本当の幸せを得ることはできないだろうけど、貴方が私の幸せを望むのなら、ジェイドと幸せになれる方法を見つけてみるわ。


「じゃあね、マリー」

「待って!…どこにいくの」


翡翠は私の額にキスを落とすとそっと離れてドアの方に歩き出した。
呼び止めた私の声に反応して振り向いてくれたけど、彼はここを出る決断をしている目をしていて…。


「今はサヨナラだよ。またきっと、会いに来る」


静かにそう言い残して、翡翠は風のように消えていった。

そっと触れた額。
アレが最後のキスのように思えて仕方なかった。