何十件と知らない人間から送られてくるメッセージは恐怖でしかなく、すぐに使っていた携帯を解約し新しく契約し直してもらった。

以来蒼人は家族と信頼できる数人の友人にしか連絡先を教えないことにしている。

そのため学校内外問わず蒼人に憧れる女子生徒は、蒼人とコンタクトを取るには直接話しかけるか手紙を書くくらいしか手段がなかった。

しかし今まで何度となく蒼人宛ての手紙を預かってきた真琴だが、一度だって蒼人に渡したことはない。

彼女たちの想いは本人に伝わってはいなかった。

それでも誰も真琴を疑いはしないのは、兄妹の仲の良さが有名なのはもちろん、蒼人が返事をしないことが返事らしいと、どこから立った話かも知れない噂がまことしやかに囁かれているからだ。

今まで預かった手紙はすべて、真琴の自室のクローゼットの中に、クッキーの缶いっぱいに詰められて眠っている。

届くことのない想いがぎゅうぎゅうに詰まった缶は、卒業を待たずに二つ目になっていた。


今日受け取ったものを含む三枚をワンピースの前についている大きなポケットに詰め込むと、真琴は自室の隣の蒼人の部屋の扉を開けた。

あまり片付いているとは言えない、男子高校生らしいと言えばらしい部屋。

物が多く、本やDVDが机の上に乱雑に積まれている。
ベッドの上には、朝脱ぎ捨てたであろう部屋着が丸まって放られていた。

真琴はそのスエットを手に取ると、そっと布団をめくりベッドに横たわる。
冷たいシーツの中で蒼人の部屋着を抱きしめるのが、月曜と木曜だけの彼女の日課。

ポケットに手紙を入れているのは、彼女たちへの当て付け。