誰もいないリビングで一息つく真琴。
両親は共働きで夜遅くまで帰って来ない。

父も母も大学病院で働く医師で、父親である如月俊也(きさらぎ としや)は心臓外科医。母親の如月加奈子(かなこ)は産婦人科医として勤務している。

両親だけでなく親族は皆医療従事者という如月家は、真琴にとっては息苦しい場所だった。

昔から出来が良く県内有数の進学校で首位を独走する兄と違い、なんとか同じ高校に入学した真琴は必死に頑張ってやっと平均より多少上という成績。

『将来は医師に』という親戚一同からの無言の圧力に耐えられなかった真琴は早々に戦線離脱し、両親は蒼人にのみ過剰な期待を寄せている。


今日は木曜日。
蒼人は月曜と木曜だけ受験対策に塾に通っていて不在。

ひとりきりの家には慣れていた。
昔からいわゆる鍵っ子で、友達と外で遊ぶのが好きな蒼人と違って、真琴は小さい頃から家でひとり本を読んでいることが多かった。

自室に入り、制服を脱いで部屋着に着替える。
膝丈のもこもこ素材のワンピースにグレーのレギンスのセットは、去年の誕生日に蒼人から貰ったもの。

鞄から今日預かった手紙を取り出す。
他にも今月は真琴と同じ一年生から二枚、あと一枚は今日渡してきた蒼人と同じ三年生からのものだった。

今時ラブレターなんてと思われがちだが、蒼人は限られた人間にしか連絡先を教えていなかった。

中学の頃、初めて与えられたスマホで友人達と同じようにメッセージアプリを使っていたが、いつの間にか自分のアカウントが校内どころか他校生にまで知られていた。