「まこ、今日俺遅いけど鍵持ってる?」
「…持ってるよ、子供じゃないんだから。早く行けば?」
「はいはい。じゃーな」
軽く手を上げて友達に追いつくように走って行ったのを見送り、真琴は窓を閉めた。
名残惜しいのか、隣の窓に集まっている女子生徒たちは未だに蒼人の背中を見送っている。
「まこは毎日一緒だからわかんないんじゃない?やっぱかっこいいよ、先輩」
……わかってる。真琴は声に出さずにそう呟いた。
(私だってわかってるんだよ?潤くん)
兄がどれだけ恰好良いかなんて、ラブレターを渡してきた何十という女の子より自分の方がずっと。
赤の他人なんかより何百倍もわかっている。
(生まれた瞬間からずっと一緒にいるんだから…)
そんな言えない想いを胸の内に燻らせる。
『まこがあおくんのおよめさんになったげるっ』
『約束。ずっと一緒だよ』
子供の頃の約束。
きっと蒼人は覚えていないと真琴は思う。
兄だけではない。
その会話を微笑ましく見ていた両親だってそうだ。
真琴は自分だけがそこから時間が止まってしまっているように感じていた。



