小学生の頃から一緒にいるが、片瀬も蒼人ほどではないにしろモテる。
剣道部に所属する彼は、中学の頃は全国大会にも出場する腕前で、よく女の子たちから声を掛けられているのを見てきていた。
さらに片瀬は真琴と行動を共にすることも多いため、付き合っているのかと聞かれたことも一度や二度ではない。
いっそ片瀬を好きになれたなら。
真琴はそんな土台無理なことを思いながら、隣で兄を褒める片瀬に視線を送った。
「そうじゃなくてさ、見かけだけじゃないかっこよさって言うの?」
「ふふ、知らないよ」
「だって勉強も運動も出来るし、生徒会長だし。留学するって噂もあったくらいだし、英語も出来るんでしょ?」
「…さぁね」
そちらを見ながらの会話に視線を感じたのか、蒼人がふと振り返り校舎を仰いだ。
眩しいのか少し目を細めつつ、真琴に気付くと笑って手を振った。
「まこ、お前窓開けて寒くねぇの?」
それだけで周りの女生徒は窓際に飛びつき歓声を上げる。
いつもの光景だと思いつつ、胸の奥が焦げ付く音がした。
「寒いからもう閉める」
「ははっ、おいっ!」
「蒼人先輩、今から体育っすか?」
「おぉ、潤。そうなんだよ、受験生だっつーのにマラソンだって。ふざけんなだよなぁ。うちぐらいだろ、受験生に未だに体育の授業させんの」
寒さに弱い蒼人の鼻は既に赤い。
それを目ざとく見つけた女子が、隣の窓で小さく可愛いと呟いたのが聞こえた。
小学校から大学まで一貫教育の高校では、内部進学でそのまま大学に進む生徒が多いため、センター試験直前にも関わらず三年生も通常通り授業が行われている。



