春の雨


受験が終わるとすぐに一人暮らしの手配を整え、物理的にも経済的にも自立を図った。

高校で得た留学制度の知識を思い出し、大学に入ってからは英語を習得するのに死力を注いだ。

学生のバイトの収入ではたかが知れているため、株や為替取引も独学で学び、家を出てからの二年間で高級外車が買える程に稼いだのもすべて真琴の笑顔のため。

何も考えなくていいように。
いつか真琴を迎えにいけるように。

他事に気を取られることなく、一心不乱にそれだけを考えて生きてきた。


「まずは場所だ。誰も俺たちを知らない場所で一緒に暮らしたい」

こくんと無言で頷く真琴。

「最速で医師免許を取ってみせる。当面の生活費もあるから心配ない。まこには何の苦労もさせない」

俯いたまま、また頷くだけ。

「血が繋がってる事実は……どうしようもない」

瞳に涙をいっぱいに溜めて顔を上げる。
その涙をキスで吸い取り、蒼人は笑顔を向けた。

「愛してる。まこ」
「あお、く……」

まだ学生で、いくら成人したとはいえ大人になりきれていないことを蒼人はわかっていた。

それでももう離れているのは限界だった。これ以上は待てない。
生まれてから今まで、こんなに離れて暮らしたのは初めてだった。