どこかで折り合いをつけなければいけない日が来ることもわかっていたからこそ、高校の頃から留学を視野に入れていたのだ。
壁一枚隔てた向こうにあどけない顔で眠る可愛い真琴がいる。
それだけで抑えられない欲情が湧き上がる日もあった。
真琴から数年分の手紙を受け取ったあの日。
何を言わんとしているのか、同じ想いだった蒼人には手に取るようにわかった。
他人からの好意を遮っていたのは真琴だけではない。
蒼人もまた、真琴に対する数多くの男達の欲の混じった好意をあらゆる手を使って排除していた。
真琴も同じように自分を想ってくれている。
何もかも放り出して抱き締めてやりたいくらいの喜びだった。
でもそうするわけにはいかなかった。
自分はまだ高校生で、親の管理下にいる。
真琴もそうだ。
その状態で最愛の妹を幸せに出来るといえるのか。
泣かさないと誓えるのか。
答えはノーだった。
『それ以上は…聞けない』
『わかるだろ?』
その言葉を投げた時の真琴の顔は忘れられない。
あんな顔をさせたいわけじゃない。
部屋を出ていった後、隣から押し殺したような泣き声が聞こえ、気が狂いそうになった。



