春の雨



―――――俺と、一緒に行かないか?


一瞬何を言われたのか理解出来ず反応が遅れた。

身体が金縛りにあったように動かない。
それは表情にも出ていたようで、蒼人は少し笑みをこぼしたあと、また真顔に戻した。

「言おうかずっと悩んだ。あれからずっと…」


蒼人の言う『あれから』。

当然それで真琴にも通じた。
少しだけ震える肩に、蒼人はそっと手を乗せた。

「俺が都合のいい夢を見てるだけなんじゃないか。まこを巻き込んでいいのか。受験前にすげえ悩まされたよ」
「あ、ごめ…っ、私…」

あの時は蒼人が受験を控えていることなど何も考えていなかった。

手紙を渡してくる女子には『受験前に告白するなんて』と思っていたにも関わらず、自分も同じことをしてしまった。

蒼人が一人暮らしを始めるため家を出ていき、ようやく少しだけ冷静になって客観的に自分のしたことを見つめた時。

自分の気持ちだけしか考えていなかったことに気付いて罪悪感に苛まれた。

手紙を渡さないでいたことも。
実の妹が突然告白してきたことで蒼人がどう思うかも。

相手の気持ちなど何も考えていなかった。