春の雨


ふたりきりのリビングがとても広く感じる。

「父さんも母さんも相変わらずな仕事人間だな」
「いつものことだし」
「親戚連中の言ってたこと、気にしなくていいんだからな」
「……ほんとに、行くの?」

自分を気遣う優しげな眼差しと声色に、二年前の気まずさはない。

それが良かったのか残念なのか。
判断が出来ないほど真琴は蒼人の留学の話に動揺させられていた。

高校の時からそうなるかもとは思っていた。
だがまさかそんなに長く日本を離れる気だったとは思いもしなかった。

六年。
それは今月末にやっと十八歳を迎える真琴にとって、途方もなく長い時間に思える。

「将来は向こうで医者になりたいからな」

強い決意を感じさせる姿に言葉もない。


本当に兄がこの家から離れていってしまう。

それはあの日の自分のせいなのだろうか。
自分があんなことを言ったせいで…蒼人は家のみならず、この国からも出ていこうというのだろうか。

そのことに愕然とする自分は、やはり何も変わっていない。

この二年間、それなりの数の男子に想いを打ち明けられたりもした。
それでも真琴の気持ちは誰かに揺らぐことは一度もなかった。

蒼人が好きだ。
もう一生、この気持ちは変えられないのかもしれない。

「あ…あおくん、あの、私…」
「なぁまこ」
「……ん?」