自ら期待される良い娘であろうと努力することをやめ、敷かれたレールから踏み出したことに後悔はなかったはずなのに…。

元日のみゆっくり過ごし、二日から部屋で勉強に励んでいたところに、珍しく蒼人が帰ってきた。

家族に春からハンガリーの医学部へ留学すると伝えるためだった。

「ハンガリーで医師免許とればEU諸国で働けるし。もう出願も済んでる」

唐突な報告だったにも関わらず、それを聞いた両親をはじめ親戚一同は驚きはしたものの大いに喜んだ。

聞けば最低六年は向こうの大学に通わなくてはならないが、英語が話せるので予備コースと呼ばれる語学学校には通わなくて済むだけ他の留学生よりは短いらしい。

それまではこちらに帰ってくることも難しいだろうと言う。


「久しぶり」
「…うん」

両親は昼食を終えると職場である大学病院へ出勤し、親戚達は場所を変えて飲みなおそうと家を出て行った。

受験生の真琴に一応気を使ったらしい。

どこの大学に行くのか、医者がダメでも看護師にはならないのかと新年早々げんなりするほど質問責めにあった真琴にとってはもう今さらな気の使い方だったが、それでも家の中が静になると息苦しさがいくらかなくなった。

和哉だけが真琴を少し心配げに見つめていたが、真琴が小さく微笑んで頷くと、父親たちを追うために玄関を出た。